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GR86/BRZ Cup 2023 第7大会 富士スピードウェイ
チームオーナーとしてチームを一から作り上げた井口卓人選手が、安定した成績を収めプロの王者に輝く。クラブマンは経験豊富な松井宏太選手が年間通して上位でフィニッシュし、念願のシリーズチャンピオンを獲得
GR86とSUBARU BRZの新型に競技車両が移行して2年目のシーズンとなった「TOYOTA GAZOO Racing GR86/BRZ Cup」。今季は7戦のシリーズ戦でチャンピオンシップを競うことになり、北は北海道の十勝スピードウェイから南は大分県のオートポリスまで、全国7ヶ所のサーキットが舞台となった。
プロフェッショナルシリーズの展開を振り返ると、開幕戦から♯88井口卓人選手の好調さが目立った。第1戦では3位、第2戦で優勝、第3戦で3位となり、連続して表彰台に登る快挙をみせた。井口選手は今季から自身のチームを結成し、チームメイトの♯87久保凜太郎選手と2台体制でエントリー。開幕戦まではチーム体制やマシンを作ることにより怒濤の日々となり、とても成績を追い求められる状態ではなかったという。それでも第3戦のモビリティリゾートもてぎでは、チームメイトと2人で表彰台に登る好成績を収めた。
シーズン中盤からはランキング2位につけていた♯7堤 優威選手も速さに磨きをかけていき、第4戦の十勝スピードウェイで優勝すると第6戦の鈴鹿サーキットでも表彰台に登る。一時は井口選手と10ポイント以上の差があったが、最終戦を前に両者の差は5ポイントへと縮まっていた。また第5戦の岡山国際サーキット以降は、ダンロップタイヤのニューモデル「DIREZZA β06」を履いた♯10菅波冬悟選手も勢いづき、井口選手と堤選手とのポイント差はあるものの最終戦までシリーズチャンピオンの可能性を残した。
最終戦を前にして、シリーズランキングトップは井口選手で71ポイント、2位の堤選手は66ポイント、菅波選手は50ポイントとなっていて、3選手によるシリーズチャンピオンを掛けた最終戦は11月25日(土)に予選、26日(日)に決勝レースが行なわれた。
レースウィークは11月末ということもあり朝晩は10℃以下まで気温が下がり、予選時の路面温度も10℃を少し超えるくらいの状況となった。通常の予選であれば、アウトラップのみでタイヤやブレーキなどに熱を入れて、タイムアタックは1周のみとなる。だが、冷え切ったこのコンディションだとウォームアップ走行を2周、または2周連続のタイムアタックといくつかのパターンがあり、選手はそれぞれが最善と考える手段を探った。
予選は予定通りに、25日(土)の12時から15分間にわたって実施された。予選開始とともにコースインした菅波選手はアタック1周目に2分00秒186をマークし、タイム計時モニターのトップに表示される。このタイムを上回ったのは菅波選手のチームメイトとなる♯80伊東黎明選手で、2周連続アタックによって2分00秒100をマーク。シリーズチャンピオンを争う堤選手は、1周のみのアタックで2分00秒141を記録して菅波選手を上回った。井口選手は2周のウォームアップ後にアタックして、2分00秒680となる。結果として伊東選手がポールポジションを獲得し、堤選手は4番手、菅波選手は5番手、井口選手は17番手とシリーズチャンピオンに向けて出遅れることとなった。菅波選手はポールポジションを獲得することがシリーズチャンピオンの条件だったため、この時点でシリーズ2位以下が確定した。
予選日から一夜明けた決勝レースは、26日(日)の11時にスタートする。前日と同様で快晴ながらも肌寒いコンディションとなった。
ポールポジションの伊東選手とフロントローからスタートした♯18中山雄一選手が1コーナーに並んで進入する。その2台に迫ったのが4番手グリッドの堤選手だったが、伊東選手と堤選手が接触してしまう。このアクシデントにより伊東選手はスピンし、そこに複数のマシンが追突してしまう。大混乱となったスタート直後の1コーナーだったが、このアクシデントには井口選手も巻き込まれていた。フロントをヒットした井口選手のマシンは走行することができず、ここでリタイアとなる。レースはすぐにセーフティカーランとなるが、クラッシュしたマシンからオイルが漏れていたこともあり、赤旗が提示されて中断となった。
約20分の中断を経て決勝レースは、2周目から再開される。1周目のアクシデントによって順位は変動し、トップに立ったのは6番手からスタートした♯31青木孝行選手だった。シリーズチャンピオンを争う堤選手は2番手で、このままの順位でフィニッシュすれば逆転での戴冠となる。だが堤選手には、1周目の伊東選手との接触によってドライブスルーのペナルティが与えられた。ドライブスルーの前にはトップに立っていた堤選手だが、ポイント圏外に沈んでしまった。
優勝争いはリスタート後にトップに立った青木選手が9周目まで後続からの猛追をかわすが、ファイナルラップの100Rからヘアピンで2番手を走っていた中山選手が抜き去る。最後は2番手に0.4秒差をつけた中山選手がトップでチェッカーを受け、前身の86/BRZ Raceを含めて初優勝を果たした。
混沌としたチャンピオンシップ争いは、堤選手がファステストラップを記録して1ポイントを追加したものの井口選手がリードを保って初の王者に輝いた。
一方のクラブマンシリーズも最終戦までチャンピオン争いがもつれ込んだ。シリーズチャンピオンの可能性を残したのは2選手で、♯125松井宏太選手が91ポイント、♯61吉田隆ノ介選手が75ポイントと両者の差は16ポイント。松井選手は最終戦で6位以上になれば、吉田選手の結果に関係なくチャンピオンが確定となる条件だった。
予選は67台のマシンが2組に振り分けられて競われた。A組の吉田選手は2番手、B組の松井選手は2分4秒414のタイムでトップとなり、ポールポジションも獲得した。
この予選結果により、松井選手がチャンピオンに王手を掛けて決勝レースがスタートする。ポールポジションの松井選手だったが、1コーナーで3番グリッドだった♯201大崎達也選手に並び掛けられ、続くコカ・コーラコーナーで逆転されてしまう。シリーズチャンピオンを掛けた4番手スタートの吉田選手は、2周目には3番手に浮上し松井選手を追った。中盤まで大崎選手、松井選手、吉田選手のトップ3は1秒以内のギャップで走行していたが、6周目に吉田選手が2番手に浮上する。松井選手はマシンの不調によって一時的にペースを落としたが、終盤には回復する。大崎選手と吉田選手の争いはファイナルラップのコントロールラインまで続いたが、最終的に大崎選手が0.034秒差で吉田選手を交わして初優勝を飾る。シリーズチャンピオン争いは松井選手が3位に入り、吉田選手を振り切った。
GR86/BRZ Cupとして2年目のシーズンとなった今季も、最終戦では2クラス合わせて100台を超えるエントリーを数えた。延べ540台以上が参戦した2023年シーズンは、両クラスともに新チャンピオンが誕生し終了した。2024年シーズンも7戦の開催が予定されていて、5月にスポーツランドSUGOで開幕戦する。約5ヶ月のオフシーズンを経て、再び激戦のワンメイクレースが繰り広げられる。
シリーズチャンピオンコメント
プロフェッショナルシリーズ
♯88井口卓人選手
今シーズンはチームを立ち上げたことで、開幕戦はマシンが間に合うか分からないほど慌ただしい状態でした。それでも初戦から表彰台に立てて、思ってもいない好結果でした。すると勝ちたいという欲が沸き、第2戦ではすぐに勝利を収められたのです。第3戦では2台ともに表彰台に登れ、出来すぎの序盤でした。それでも中盤戦からはワンメイクレースの難しさを味わいました。苦しい状況でも久保選手とともにポイントを積み重ねられたことが、結果的にはシリーズチャンピオンに繋がったと思っています。
最終戦は緊張感を漂わせないと思っていたのですが、いつもと違った雰囲気になっていたのかもしれません。予選までにセットアップをまとめきれず、スタートティンググリッドは中団に沈みました。この時点でシリーズチャンピオンは遠のいたと感じ、決勝レースを楽しもうと切り替えました。それでもスタートするとオーバーテイクをしたいという気持ちがあり、いつもなら様子を見て入る1コーナーでもブレーキを詰めていました。気付いたときには前にマシンが止まっていて、接触してしまいました。リタイアしたことも残念でしたが、マシンを壊してしまったことがショックでした。結果としてはライバル勢もポイントを伸ばせなかったことでチャンピオンを獲れたのですが、すっきりしない気持ちでした。ただ、このハイレベルのレースでシリーズチャンピオンになることは難しいですし、自らのチームで獲れたことも財産になりました。
クラブマンシリーズ
♯125松井宏太選手
2022年シーズンは取りこぼしたレースがあり、結果としてシリーズ2位となりました。そのため、今シーズンは取りこぼしなく1年間を戦えればと思って挑みました。意識はしていないのですが戦績として調子の良い、悪いサーキットがあります。今シーズンは結果が出ていないコースでも表彰台に登ることができ、年間を通して的確な状況判断ができたと感じています。シーズン序盤は菱井選手、中盤から後半は吉田選手や大西選手がライバルとなったのですが、確実にポイントを積み重ねられれば勝負できると思っていたので、追い上げによって翻弄されることはありませんでした。
最終戦はある程度のポイントをリードしていたので、予選でシリーズチャンピオンを争った吉田選手の前に出ることだけを考えました。ポールポジションが獲れたことで、気持ちに余裕が生まれたのは事実です。それでも決勝レースは表彰台でチャンピオンを決めたいと思っていました。途中でマシンに不調が現われてヒヤッとしましたが、ポジションを守ってシリーズチャンピオンが獲れました。最終戦も他のレースと同様に周りを見ながらマネージメントできたと思っています。多くのサポートのお陰で念願のシリーズチャンピオンが獲れ、感謝しています。
【2024年 GR86/BRZ Cup 暫定スケジュール(2023年11月30日時点)】
ラウンド | 日程 | 開催場所 |
---|---|---|
第1大会 | 5月11日(土)~12日(日) | スポーツランドSUGO(宮城県) |
第2大会 | 6月16日(日) | オートポリス(大分県) |
第3大会 | 7月13日(土)~14日(日) | 富士スピードウェイ(静岡県) |
第4大会 | 8月24日(土)~25日(日) | 十勝スピードウェイ(北海道) |
第5大会 | 9月14日(土)~15日(日) | 岡山国際サーキット(岡山県) |
第6大会 | 10月5日(土)~6日(日) | 鈴鹿サーキット(三重県) |
第7大会 | 11月23日(土)~24日(日) | モビリティリゾートもてぎ(栃木県) |
【2023年シリーズポイントランキング(最終)】
プロフェッショナルシリーズ
順位 | No. | ドライバー | 車名 | 合計ポイント |
---|---|---|---|---|
1 | 88 | 井口 卓人 | 東京スバル BS BRZ | 71 |
2 | 7 | 堤 優威 | CABANA BS GR86 | 67 |
3 | 10 | 菅波 冬悟 | OTG TN滋賀 GR86 | 53 |
4 | 293 | 岡本 大地 | BRMトヨタカローラ高知 GR86 | 49 |
5 | 18 | 中山 雄一 | IBARAKI TOYOPET GR86 | 49 |
6 | 87 | 久保 凛太郎 | 千葉スバル BS BRZ | 36 |
クラブマンシリーズ
順位 | No. | ドライバー | 車名 | 合計ポイント |
---|---|---|---|---|
1 | 125 | 松井 宏太 | TEAM SAMURAI GR86 | 104 |
2 | 61 | 吉田 隆ノ介 | GEONE PG KR BRZ | 91 |
3 | 557 | 大西 隆生 | オートバックス G-7AS GR86 | 59 |
4 | 6 | 咲川 めり | Generations GR86 | 46 |
5 | 310 | 岡田 友輔 | C新茨城 CSIRacing GR86 | 30 |
6 | 339 | Ken Alex | TSUMUGI PG KR BRZ | 29 |